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5月号特集 中世文学における名所
名所という言葉は、中世において和歌の方面で広く用いられるようになった。部立てや名所歌の形で整理されるほか、歌枕の伝統を引き継ぎつつ、やがて近世には名所図会など視覚的なかたちにも展開され、今日でも親しまれる一般的な語となっている。
中世文学における名所は、単なる地名を指すのではなく、物語や信仰の記憶を背負った象徴的な場として立ち現れる。和歌・連歌に詠まれることはもちろん、説話、謡曲、今様など多様な文芸に取り込まれ、それぞれの場で新たな意味を与えられた。霊地との関わりや参詣の実践と結びつくことで宗教的な色彩を帯び、また「諸国一見」と呼ばれる旅の広がりの中で、人々が実際に名所を訪れる現実とも重なり合った。それは観光という発想の源流とも言いうるだろう。さらに西行仮託『撰集抄』に見られるように、作者自身が訪れていない土地を語り、西行が歩いたかもしれない名所を物語化する場合もあった。名所は、現実の経験と文学的表象とを結びつける領域であったのである。
本特集では、中世文学における名所の諸相を改めて検討する。歌論書や説話、謡曲などを手がかりに、名所がいかに理解され、物語化され、また知識として整理されてきたのかを問いたい。従来の和歌研究にとどまらず、宗教や地域の歴史、芸能とのかかわりを視野に入れた論考、さらには旅や土地の経験がもつ文化的意味を考察する研究も歓迎する。名所の表象がどのように人々の世界観を形づくったのかを論じるもの、また記憶と土地の関係を見直すものなど、多様な角度からの論文を期待したい。名所を切り口に、中世文学の新しい可能性を共に考える場としたく、多くの参加を呼びかけるものである。
記
一、締切 2026年2月15日 正午必着
一、応募方法 新投稿規程を参照
『日本文学』編集委員会
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