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5月号特集 中世の歴史叙述・文学
日本中世の歴史叙述研究を切り拓いたのは桜井好朗の一連の仕事であった。桜井「中世における歴史叙述の構造」(『中世日本の精神史的景観』1974)、同「神話と歴史についての問題提起」(『中世日本文化の形成』1981)等の著作で対象化されたのは、ほぼ同時代に伊藤正義によっても見いだされた「中世日本紀」の世界であり、寺社縁起資料の持つ神話的構造であった。そこでの見わたしと方法は、軍記物語や中世芸能研究へも適用され、その対象とする範囲を拡大させながら現在の研究状況の前提となっている。そのことは佐伯真一編『中世の軍記物語と歴史叙述』(2011)を始め、この術語を冠した編著・単著が複数刊行されてきた状況からもうかがうことができる。
しかしそれゆえに、歴史叙述研究の範囲がどこまで広がってしまっているのか、かえって把捉しづらい環境となってしまっていることは否めない。「中世日本紀」研究の広がりという点で言えば、たとえば『中臣祓訓解』等をはるかに横溢し、古今序註など諸注釈まで拡散する。さらに言えば、この状況はこれに限ったことではなく、軍記物語や歴史物語、寺社縁起・寺誌類はもちろん、『扶桑略記』『吾妻鏡』『神皇正統記』等の史書や年代記・皇代記、「未来記」という方法までをも包摂する偽史・稗史、さらには文字テクストのみに拠らない系図・血脈に至るまで、「歴史叙述」という術語によって理解されうる資料は広がるのである。これはたしかに中世「知」の実態を明らかにする上では歓迎するべきものではある。しかし、歴史叙述とはいかなる営みなのかという問いを念頭に置くならば、まずは現今の中世歴史叙述とその研究の全貌をできる限り把握することから始めるべきである。
このような問題意識に基づいて「中世の歴史叙述・文学」を起案した。「歴史を叙述する」という営みを明らかにするためには、無論、文学研究の方法が不可欠である。積極的な投稿を期待する。
記
一、締切 2025年2月15日
一、枚数 35枚(400字詰)以内
『日本文学』編集委員会
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