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5月号特集 建築・土木と中世文学
土や石、木材、金属を加工して邸宅や堂塔社殿を建築すること、道路敷設・隧道開鑿・架橋・築堤・灌漑といった土木事業は、人間が文明的な生活を送る上で不可欠の営みである。そのような営為は、仏法伝来・遣唐使を始めとした大陸文明との接触によって変革・加速されたはずだが、とりわけ院政期以後の中世という時代にあっては、大陸と日本とを繋ぐ回路が複雑化したことはもちろん、あいつぐ戦乱や災害に起因する復興事業の増加、西欧文明との衝突等によってさらなる革新がもたらされたことは疑いない。
このような観点について注目した先例に、説話文学会二〇〇九年度大会シンポジウム「建築と説話――身体・建立・信仰――」(『説話文学研究』四五号、二〇一〇年)がある。そこでは、「建立」の語が建築のみならず仏事・絵画・和歌・物語等に至るまで広く用いられており、想念の世界を具現化するものと指摘した小川豊生氏「神話の建立」(『古代文学』四八号、二〇〇九年)を端緒として、建築史学との架橋が試みられた。その成果は以後の儀礼空間と宗教テクストについての議論に少なからぬ影響を与えたと見てよい。
しかしながら、建築・土木と中世文学との関わりは、この観点のみに留まるものではない。たとえば、現前する建築物や庭園についての言語表象は、漢詩文・物語はもちろん縁起・願文・表白など、対象を跨いで検討されねばならない課題であろう。建築・土木事業の過程そのものの文芸化という点では、「長柄橋」に関わる和歌や能楽、幸若舞曲「築島」がまず想起されるし、造寺・架橋・作庭・経塚造営などについての説話伝承は枚挙に暇ない。この種の説話と関連づけられてきたのが勧進唱導で、中世最初期の事例としては俊乗坊重源によるものが著名だが、その実像と説話、そこで用いられた勧進帳とそのテクストなど、未解明の課題は多く残されている。また、建築・土木とその周辺の事業に関わった人々と中世文学との関わりについても見のがせない。大工・石工・庭師ら種々の職能民の実像、その伝承・信仰の考究がそれだが、近時、明らかにされつつある、中世禅林を始めとした知識人が有していた建築・土木についての学識のさらなる解明も、中世文芸の前提を把握するという意味において不可欠である。
中世の建築・土木と文学を考えるための対象・方法はこの他にも多く想定される。多様な観点からの意欲的な投稿を期待したい。
記
一、締切 2024年2月15日
一、枚数 35枚(400字詰)以内
『日本文学』編集委員会
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