ロゴ
Home | About Us | Contact Us | Site Policy | Access Map

投稿のご案内


10月号特集 「文字」と「声」の往還

 
   新型コロナウィルス感染症の長期化もあり、コミュニケーションがメールやSNS等を使用した文字に偏る傾向にある。発音されることを前提としない記号混じりの流行語まで生まれるようになった。一方では、文字の読み上げソフトの発達も著しい。「文字」と「声」との往還は、現代日本語において新たな一面を展開していると言えるだろう。今、「声」と「文字」との関係を捉えなおしたい。
 「声」を文字化することは、漢字の使用をはじめた時から言文一致運動の近代を経て、現代にいたるまで常に文学の大きな問題であった。日本語は、漢語によって自立語が拡張されると同時に、表記に大きな制約を受けた。その制約こそが和文体を作ったとも言える。仮名文字との混用文となっても、「文字」を「声」に出して訓むためには「文字」の外にある様式や解釈を踏まえる必要があった。和歌・連歌・俳諧が、長きにわたって文学の軸にあり続けたのは、「文字」と「声」との特別な距離感がそこに存在していたことと切り離せないだろう。『梁塵秘抄』の成立は「声」を「文字」に残そうという試みでもあった。
 中世軍記・説話には様々な擬声語・擬態語も登場した。その一方で、いわゆる声点本の増加は「文字」から「声」への関心の高まりを示したものと位置づけうる。近世は、俗語や口語の文字化が進んだ時代であった。古典注釈における俗語訳、洒落本や滑稽本における口語調文体、講談や落語の口話の速記記録などは、「声」を文字化する試みであったし、歌舞伎や人形浄瑠璃のような演劇の世界では脚本の「文字」を「声」にする技術が錬磨された。言文一致運動の時代には、階層やジェンダー、地域などにおける多様な言葉をどのように言語化してきたのか(できなかったのか)という問題がある。以降、メディアはますます拡張し、「詩」の表現や朗読、演劇や脚本、ラジオドラマなどに関わって、「文字」と「声」の往還関係は複雑さとスピード感を増した。
 これまで、「文字」を中心になされた書誌学的研究や、版本の書字・文字様式の問題、原稿執筆の問題、伏字や検閲の問題も、「声」との関わりを考察することで新たな視座が拓けるかもしれない。国語教育の現場における朗読なども大切な「文字」と「声」の往還である。オンライン授業に取り組まざるを得なくなった今、教室での国語教育はどのように展開されているのだろうか。
 本特集は、「文字」から「声」を発する、「声」を「文字」にするという往還関係に注目することで、「日本語の文学」研究に一定の視座を与えようとするものである。統一号の特集なので、全ての時代と国語教育に関する論文を期待している。
    
     記

 一、締切 2022年7月15日
 一、枚数 35枚(400字詰)以内

『日本文学』編集委員会


ページトップへのボタン このページのトップへ

Copyright (C)2006 日本文学協会, All Rights Reserved.