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10月号特集 出版時代の写本

  
本特集では、出版文化の時代と言われる近世において、写本というメディアが、文学にとってどのような意味を持ち、どのような役割を担ったかを考えてみたい。
 出版されるもの、されないものの違いはどう考えるべきだろうか。『春雨物語』のように、出版に値する内容を備えながらも刊行されなかった書物は意外に少なくないのではないか。出版された書物は、刊行価値を認められたもののごとくであるが、学芸の世界に於ける秘伝書のように、特別な価値を持つものは逆に出版し得ないという面もあるだろう。
 また、写本が板本化される場合、内容の増減や変質を伴うことが多い。写本(稿本や板本の異文など)と板本のテキストを比較することで、板本の商品性などが見えてくるが、板本からは排除された要素の方に面白みが見出されることも少なくないように思われる。
 出版規制の埒外にある写本の実録類の中では、徳川将軍の暗殺(『日光邯鄲枕』)や日露海戦(『北海異談』)が描かれるなど、板本では不可能な過激な発想と表現が生まれている。実録の本質は、テキストが共同体の欲望を吸い上げつつ流動してゆく点にあるともいわれるが、そのようなテキストの流動性を可能にしていたのも写本という媒体である。
 商業的写本の制作と流通の実態を考えることも、近世の写本研究には重要な視点であろう。近世初期に奈良絵本などを制作していた草子屋、表紙屋等の業態や、名古屋の戯作グループの作った写本が、貸本屋大惣を通じて流布していたことなど、実証的な研究が進んでいる。貸本屋は、出版のつてや機会に恵まれない地方作者の著作の制作と流通にも携わっており、その媒体は写本であった。
 写本は近世文学の様式性、類型性から比較的自由でありえたろうか。写本にも外形的様式は備わるし、商業的写本には板本の様式を模した「板本仕立て」のものもあった。しかし、内容における類型性、例えば「因果応報」や「勧善懲悪」などはどうであろうか。出版という制度に抑圧されない「写本」というメディアの中に、より自由な表現の可能性を探りたい。

          記

 一、締切 2014年7月20日
 一、枚数 35枚(400字詰)程度

『日本文学』編集委員会


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