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枕 草 子 の 会   活 動 報 告

津 島 知 明

 本誌に活動報告を載せてもらうのも、今回で3回目となった。発足から10年ほどの歩みを小森潔氏が(2007年4月号)、前回は東望歩・園山千里・山中悠希の三氏が、会の雰囲気やそれぞれのスタンスを記してくれている(2009年7月号)。
 現時点(2011年6月)で、『新編 枕草子』第一〇〇段を本橋裕美氏のレポートにて読み終えたところ。14年目を迎え、例会もかなりの数を重ねてきが、実はまだ半分も進んでいないことになる。読み終える日を思うと気が遠くなるが、二、三か月に一回、無理なく参加できるようにと自然にできた流れである。先のことは考えず、一回一回を充実させて行ければと思っている。

 実はこの5月、枕草子の会にとっては記念すべき出来事があった。メンバーの分担執筆になる論集『枕草子 創造と新生』を、翰林書房より刊行できたからである(小森氏と津島の共編)。輪読の成果を何らかの形でまとめたいという思いは、発足当初から小森氏と私にはあったのだが、ようやく念願がかなったことになる。同書「まえがき」とも一部重なるが、せっかくの機会なので、以下に概要を紹介させていただく。
 まず編集方針としては、自由論文の寄せ集めではなく、現時点での枕草子研究の総括と今後への指針となるような形を目指した。編者間で検討を重ねた結果、いくつかのテーマを設定し、メンバーそれぞれに分担してもらうことにした。
 第一部は「創造する枕草子」と題して、枕草子が創造した世界と改めて向き合い、その特性・属性をひとつひとつ丁寧に炙り出そうと試みている。テーマと担当者は以下の通りである。
「和漢典籍」中島和歌子
「信仰・習俗・儀式」園山千里
「色彩・季節」鈴木裕子
「装束・身体」橋本ゆかり
「建築・空間」東望歩
「和歌と散文」落合千春
「古記録・史実」藤本勝義
「家系」上原作和
 第二部は「新生する枕草子」と題して、枕草子がいかに受容/変容され、また生まれ変わっていったか、以下のように時代時代の様相を捉え直してみた。
「諸本・異本」山中悠希
「狭衣物語」鈴木泰恵
「近世の注釈」沼尻利通
「枕草子と教育」小森潔
「小説・評論」津島知明
「漫画」三村友希
「海外の研究」緑川真知子
 巻末には、東望歩氏による平成以降の「枕草子関連作品リスト」も掲載することができた。研究書のみならず、漫画小説やメディア関連作品まで、枕草子に関わる文献・作品を網羅しており、貴重な資料として役立てていただけると思う。
 多様な切り口にも関わらず、会員間の割り当てはことのほかスムーズに進んだ。それでもカバーしきれない分野には会員以外の寄稿もいただけたことで、枕草子をめぐる諸問題を包括するような、目標の形に近付けたと思っている。

 小森潔氏に声を掛けてもらった会の発足当初、あまりに「私(だけ)の枕草子」に執してきた時間が長かったせいか、輪読の場にいかに臨むか、私には若干のとまどいもあった。偏屈な話だが、「誰も枕草子をわかっていない」という被害妄想をもって過ごした院生時代のトラウマは、簡単には消せなかった。
 以後の例会への参加は、いわばその鎧を徐々に脱ぎ捨ててゆく歴史でもあった。特に本文と虚心に向き合い、「わからない」ことをきちんと認める所から始める、ある意味で厳格な姿勢は、初期のメンバーだった室城秀之氏に植え付けてもらったと思っている。以後、室城イズムを継承しつつ、気ままに枕草子を語り合う雰囲気も失わず、会は今日に至る。特に近年の若手メンバーによるレポートの充実、精緻極まる資料には目を見張るものがあり、かつての自分と比べて、はるかに頼もしく、また一面うらやましく眺めたりもしている。今回の論集が実現できたのも、後輩たちの成長に背中を押された所が大きい。

 発足時から本会では、角川文庫本をテキストに、諸注釈、諸本を随時参照しながら読み進めてきた。ただ輪読を重ねるうち、各テキストの本文校訂、句読点から漢字やルビの当て方まで、一字一句がいやが上にも気になり出し、「理想のテキストとは……」という自問を繰り返すようになっていた。
 ちょうどその頃、おうふうの「新編」シリーズと関わる機会を得たので、とりあえずは三巻本に限定して、ささやかだが輪読の成果をも盛り込んだ本文を、昨年形にすることができた(『新編 枕草子』)。何より共編者の中島和歌子氏には、本文以上に価値ある注を付けていただいた。近世注から現代注、最新の論考まで広く目配りした上で施された注(思わず膝を打つような卓見も多数)に詳細な補注も加え、注釈書としての利用にも応える内容となっている。巻末には同じく中島氏による枕草子仕立ての至便な系図、東望歩氏による大内裏・内裏・清涼殿の付図を載せている。既存の図版からの流用ではなく、東氏が自身の研究成果を盛り込んで新たに製図(および解説)した労作である。こうした自前のテキストを持つことができたのも、ひとえに研究会での輪読の賜物、出会いのおかげだと思っている。

 メンバーの顔ぶれは、発足当初と比べてかなり様変わりしたが、今や年齢や専攻も多岐にわたり、北は北海道、南は名古屋から、時にアジア各国やカナダからの参加もあったりと、思いがけぬ広がりを見せている。特別な入会手続きなどもないので、会員数というものはカウントできないが、都合の付く者が顔を出すとほぼ十人前後に収まり、日文協事務所のキャパにも合った、語り合うには程よい規模で続けられている。
 日本文学協会の運営にも多少なりと関わってみて、当たり前のように利用させてもらっているこの事務所も、先人の志や努力によって維持されてきた大切な場であること、改めて思い知らされた。初めて足を踏み入れた時、「これがあの日文協の……」という感慨に襲われたものだが、歴史の染み付いた一室をいちど覗いてみようかと、そんな物見遊山な気分でもかまいません。ぜひ気楽に扉を叩いてみてください(日程は『日本文学』誌上、および協会のホームページにて掲載中)。

(『日本文学』2011年7月号からの転載)


枕草子の会  二〇〇七年四月 報 告 へのリンク
枕草子の会  二〇〇九年七月 報 告 へのリンク

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