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近 代 部 会  活 動 報 告

 口 智 史

 近代部会では1992年に「文学史への試み」というテーマを立て、それ以来2009年までの約20年間、大逆事件、日韓併合の1910年から1970年に至るまでの、約60年間の文学作品の読み直しを行ってきた。
 もちろん会員の研究スタイルは一人ひとり異なるが、作品に対するアプローチの方法は、作家についての情報や既成の文学史的位置づけをまず括弧にくくり、作品の表現を踏まえた〈読み〉と、表現と時代状況との緊張関係を重視するという点で、集団研究としての方向性と方法を共有し、基本的に一つ一つの作品を読み変えるという作業を地道に継続してきた。
 その過程で、歴史や時代状況に対して文学作品が鋭い批評性を持っているということ、あるいは文学が現在の我々の認識を先取りしており、社会科学で捉えきれないものを虚構で捉えるところに文学表現の意味があるというようなことなど、文学の存在意義と文学研究の意味をこの20年間の報告・討論を通して再確認できていったことは大きな収穫だった。またこのような試みを通して、たとえば従来の文学史のなかで社会性がないといわれてきた「第三の新人」をはじめとする作家や作品のイメージも大きく変わっていったが、それは同時に、これまで政治や社会、歴史の問題を排除してきた既成の文学観、現在の文学研究の偏向性を問題化していくことでもあった。また今日の文学研究は既成の文学(史)観を越えたと思っていたが、我々は未だにそれに囚われているのだということを強く反省するきっかけにもなった。

 このような活動の総括から、2009年9月の総会では、我々がその影響圏から抜け出ているとはいえない近代文学観、近代文学史を批判的に検証・相対化する必要性、そのために所謂「近代文学」の起点と考えられてきた明治初期の文学を問い直そうという意見が自然に出てきた。
 特に政治性、社会性の欠如は、自由民権期までの文学の持っていた様々な可能性を坪内逍遙の提唱した近代的な文学観が切り捨ててしまい、その延長に現在の文学史と文学研究があるのではないかという問題が提起された。そこから自由民権運動の挫折と「小説神髄」が登場した明治20年前後を文学史上の一つの大きな転換点と考え、自由民権運動とその挫折と文学との関係を視野に収めつつ様々な文学を検証し直すことで、これまでの近代文学史観を、さらには我々の文学観を批判的に相対化することができるのではないか、と言うところに議論の着地点を見出していった。
 その結果、2009年度の活動テーマを「文学史への試み――明治20年前後」と決定し現在まで継続されている。まず2009年度には次のような報告、もしくは作家と作品が取り上げられた。( )内は報告者。
 「自由民権と文学」(伊豆利彦)、二葉亭四迷「浮雲」(高口智史)、幸田露伴「五重塔」(稲林弘基)、尾崎紅葉「三人妻」(小嶋洋輔)、宮崎湖処子「帰省」(西田一豊)、司馬遼太郎「殉死」(大島丈志)、広津柳浪「女子参政蜃中楼」(西村英津子)、三遊亭円朝「怪談牡丹燈籠」(峰村康広)、宮崎夢柳「芒の一ト叢」(前田角藏)、矢野龍渓「浮城物語」(後藤康二)、「明治二十年前後の透谷と漱石―自由民権運動との関わりで―」(小澤勝美)、坪内逍遙「小説神髄」(島崎市誠)。

 2010年9月総会では、前年度の総括で、自由民権運動の問題を媒介にこれらの作品群を読み直してみたとき、むしろこれまで「浮雲」に比べ「前近代的」ということで評価の低かった作品(たとえば「三人妻」「五重塔」「蜃中楼」「牡丹燈籠」)の方が同時代に対する辛辣な批評意識を持っており、そこに豊饒な可能性があるのでないかという意見が多くをしめた。それと同時に、作品の価値は作品に内在するものではなく、読み手の側の〈読み〉の枠組みに大きく規定されるということが、一層明らかになり、そこから現在の読み手としての我々を呪縛する〈日本近代文学〉のコードを如何に批判的に相対化するかという課題がさらなる重要性を帯びてきた。そして2010年度の活動テーマも「明治20年前後」の継続となった。
 ただ議論の過程で、これまでの近代文学史の傍流に置かれてきた作家作品の読み変えの問題と同時に、小説中心に捉えられてきた文学史に対して、西洋の文学思想や翻訳文学との影響関係など、これまで周縁的に置かれてきた事象との関係などを広範に捉え返すという、歴史的に隠蔽・看過されてきた部分の検証の必要性も説かれ、これらの二つの視点から明治20年前後の文学にアプローチするということで今年度の計画が立てられた。
 今年度は現在(2011年4月)までに「雑談 明治二〇年代」(伊豆利彦)、前田愛「幕末維新期の文学」(高口智史)、木村曙「婦女の鑑」(戸塚麻子)、森?外「舞姫」(西田一豊)という報告がされている。
 またこれから予定されている報告に、中江兆民「三酔人経綸問答」(大島丈志)、三遊亭円朝「乳房榎」(峰村康広)、徳富蘇峰「将来之日本」(稲林弘基)、戸田欽堂「民権演義 情海波瀾」(前田角藏)「子規と漱石」(小澤勝美)、仮名垣魯文「高橋阿伝夜叉譚」(関谷由美子・西村英津子)、河竹黙阿弥「人間万事金世中」(鈴木正和)、若松賤子訳「少公子」(後藤康二)などがある。

 近代部会の賛助会員は四月現在で56名で、例会は毎月第3日曜日午後3時から、大塚の日文協事務所で行われている。
 また研究誌として「近代文学研究」を年一回のペースで発行しており、この4月には第28号が発行された。
 さらに会員の連絡・交流のために毎月、部会誌「葦の葉」を発行している。4月現在で317号に及んでいる。



(『日本文学』2011年7月号からの転載)


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