ロゴ
Home | About Us | Contact Us | Site Policy | Access Map

投稿のご案内


8月号特集 第三項と〈世界像の転換〉――ポスト・ポストモダンの文学教育

 
  
   本誌八月号では、過去三年間にわたり「〈第三項〉と〈語り〉―ポスト・ポストモダンと文学教育の課題」をテーマに特集を組み、私たちのおかれた現状とそこに横たわる問題を探求し、文学と文学教育研究に関する理論的な深化とさまざまな実践の展開を試みた。この間、とくに価値相対主義と対峙し、所謂「ナンデモアリ」を標榜した〈読み〉(〈エセ読みのアナーキー〉)やそれによってもたらされる世界観の乗り越えと、ポストモダンの抱える根源的な問題の打開を目指し、毎月の例会をはじめ五月の拡大例会、夏の研究集会や秋の大会等とも連動して活動を進めてきた。
 日本におけるポストモダンの展開は、旧来の主客二項からなる素朴実在論的な実体主義(「コレシカナイ」の世界)と、それに由来する世界観を崩壊させただけではなく、客体の対象そのものをも消滅させてしまった。すべての事象は、われわれの意識に現象するもの、言語ゲームの中に留まるものなどと規定され、感覚与件としての客体、あるいは主体の認識を生み出す源泉であるはずの〈超越的なもの〉も、その〈不可知性〉あるいは〈超越性〉ゆえに排除されてきた。そこではバルトの指摘する「容認可能な複数性」と「還元不可能な複数性」の峻別すら自覚されていないのが実情であり、文学と文学教育研究においては、〈文脈〉や〈読みの根拠〉を放擲し、〈読むこと〉の原理論を探求することも放棄させる結果となった。これは教室における文学教育にも大きな混乱をもたらした。ポストモダンの抱えるこうした矛盾に対し、私たちが「八〇年代問題」として強く問題提起を行なってきた所以でもある。
 こうした混迷する状況を切り開くために導入されたのが、主体(読者)と客体(主体によって捉えられた客体/本文)の二項に加え、第三項として客体そのもの(原文)を措定した世界観である。それは如上の世界観認識の問い直しを求めるものであり、第三項を導入することは、「コレシカナイ」と「ナンデモアリ」の不毛な相克という二分法を乗り越え、私たちの認識や知覚、〈読みの根拠〉を蘇生させることでもある。第三項によって、世界や〈読み〉を私たちの手に取り戻すことができるのである。
 最新の脳科学や現代物理学の知見は、私たちを取り巻く世界は決して単一で一元的なものではないことを明らかにしている。そうであるならば、世界についての私たちの認識も多層的・多元的なものであると言えるのではないか。本特集でいう〈世界像の転換〉とは、「単一な世界」に関する解釈の変更という意味ではなく、「世界」の在り方そのもの、世界認識の在り様そのものの変更を射程に入れたものである。
 第三項を機軸とした時にどのような「世界像」が浮かび上がるのか。第三項を介在させることによってなされる〈世界像の転換〉が、私たちの文学作品の〈読み〉や、文学作品を〈学ぶ〉〈教える〉こととどのように切り結んでいくのか。「第三項と〈世界像の転換〉」とは、そうした問題に直接結びついている。
 本特集号(また二〇一五年)から、「第三項」に「山括弧〈 〉」を付さないこととした。「第三項」には、大森荘蔵の説く「生活上の分類」の基準から捉えた「真実に対しての誤り」の観点からの批判が続いてきたが、ここ数年の私たちの活動を通して、〈超越〉を含みこんだ思想の共有や、「真実の百面相」という世界観および「第三項」という概念への共感も寄せられるようになってきた。議論をさらに前へ進めるためにも、「第三項」の「山括弧」は除くこととした。読者諸氏のご理解を得られれば幸いである。
 ポストモダン以降の閉塞した現状を打破し、あらたなる〈世界像〉の構築を目指し、文学と文学教育研究の未来を拓く可能性を模索する意欲的な論考をお寄せいただきたいと念願します。
    

     記

 一、締切 2015年5月20日
 一、枚数 35枚(400字詰)程度

『日本文学』編集委員会


ページトップへのボタン このページのトップへ

Copyright (C)2006 日本文学協会, All Rights Reserved.