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7月号特集 〈過去〉と〈未来〉を結ぶ中世


 中世は、〈過去〉への意識と〈未来〉への志向がとりわけ先鋭化した時期だった。先人の言葉や出来事をいかに受け止め、自らをどう位置づけるのか。そして、自分たち及びそれ以前の人々が蓄積してきた事象を、後代の者にどう伝えるのか。いつの時代でも、こうした〈過去〉への意識と〈未来〉への志向は、今ここにある〈現在〉への自覚をよびさまし、人間が言語表現を生みだす原動力の一つとなってきた。しかし、中世と称される十三世紀以後十六世紀に至る時期は、とりわけ〈過去〉と〈未来〉を結ぶ言説に満ちあふれている。
 具体例を挙げてみよう。この頃、『古今和歌集』『源氏物語』などの主要な平安文学が、古典として仰がれるようになり、読みの方法を後人に伝える注釈が学問として確立する。それと連動して、和歌、連歌、歌謡、物語、軍記、芸能などにおいて、古典の享受と新たな作品の生成が旺盛になった。さらに、鎌倉期以後の歌学においては、和歌会での次第や所作を記した作法書が成立する。守覚法親王がまとめた宗教書や、二条良基が意を尽くした朝儀をめぐる有職故実の数々も想起されよう。これらは、先例を規範として今の儀礼をつつがなく執り行うためだけではなく、後世に故実を正しく継承するために整備された書だった。また、藤原俊成・定家に見られる上古・中古・近代の時代区分に基づく和歌史の叙述や、『愚管抄』『神皇正統記』の歴史叙述があるように、前代から今日を経て後代に至る、時間という軸に対する認識が明確に現れた言説が多く出てくることも注意される。
 そこで本特集では、中世文学全般を、〈過去〉と〈未来〉の双方向へ向かうまなざしが交差する運動であると捉えてみる。広範な領域に渉るテーマだが、だからこそ、さまざまなジャンルを横断して、この時代の言語行為のあり方を多角的に問い直すことが可能であろう。会員諸氏の意欲的な投稿を期待したい。

     記

  一、締切 2010年4月20日
  一、枚数 35枚(400字詰)程度

                                 『日本文学』編集委員会
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